地下鉄のシャッターが開くのを待ちながら、
いつもなら周りの風景を眺めている。
けれど今日は、
あの二本の木の名前が
気になって仕方がなかった。
あの二本は、
もうただ「そこにある木」ではない。
一緒に謎を追いかけ、
正しい名前へ辿り着いた木なのだ。
だから「癒しの木」とか「心の木」とか、
そんな直接的な名前ではなく、
物語を知っている私にしかわからない、
小さな愛称をつけてあげたかった。
最初に浮かんだのは「謎解きの木」
もう少し柔らかくして、
「ふたりの木」
クロガネモチとハナノキ。
種類は違うけれど、
私の中ではいつも並んでいて、
静かに私を見送り、
そして片方には長い長い探偵物語まである。
でも、もう少しあの出来事を残したい。
葉っぱや幹の写真を何枚も撮り、
落ち葉を探して歩き回り、
植物探偵になった私は、
ついには役所へ二度も問い合わせた。
調べて、迷って、また調べて。
名前をめぐり、
いろいろな場所をめぐり、
とうとう本当の名前へ巡り会った。
そうだ。
「めぐり木」にしよう。
最初は「何の木?」から始まった。
調べて、迷って、間違いに気づいて、
ようやく本当の名前に辿り着いた。
ただの街路樹だった二本が、
いつの間にか私の中で
物語を持つ木になっていた。
二本まとめて、めぐり木。
そして一人ずつにも名前をつけよう。
クロガネモチは、
「モチおじさん」
どっしり構えて、少し無口。
でもいつも静かに
見守ってくれているような存在。
そしてハナノキは、
「なぞちゃん」
最初は正体がわからず、
ずいぶん一緒に謎を追いかけた。
ようやく本当の名前がわかったあの日、
葉っぱが風に揺れて
喜んでいるように見えた姿を、
私は今でも覚えている。
次に帰ってきたら言ってみよう。
「ただいま、モチおじさん。なぞちゃん」
謎の木①、謎の木②と呼んでいた二本に、
とうとう名前がついちゃった。
モチおじさんとなぞちゃん。
そこに風さん。
そして、不思議ちゃんと呼ばれている私。
四人の登場人物が揃った。
この四人がこれから織りなすのは、
きっと心を語る、光の旋律のような物語。
そしてその物語のどこかには、
いつも小さな新芽がある。
頭の中には、
もうぼんやりと景色まで浮かんでいる。
でも、この物語にはまだ題名がない。
だから今は――題名のない物語。
それもなんだか、いいじゃない。
これから四人で歩きながら、
いつか物語の方から
名前を教えてくれるかもしれない。
……なんて考えていたら、
乗り換えの駅に着いた。
今日乗る電車は、
日曜日と月曜日の朝だけある、
一番早く到着する電車。
いつもより8分早く着く。
朝の8分は、とても貴重だ。
さっきまで、
めぐり木や風さんと物語の世界を
歩いていたはずなのに。
気づけば頭の中では、
時間を計算している私がいる。
あら。
不思議ちゃんはどこへ行った?
どうやらもう一人の私は、
さっさと仕事着に着替えたらしい。
物語の世界をひょいと飛び出して、
私はもう、ビジネスモードになっていた。
めぐり木に名前がついた朝✨
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