青い瓶を見ると、
なぜだか足が止まる。

群青とも、
少し透明な青とも違う。

光を通すと、
水の中に夜が溶け込んだような色。

「澪」

私は、このお酒を
たくさん飲んだ記憶があるわけではない。

むしろ、味について語れと言われたら、
はっきりとは答えられない。

ただ、この瓶の色が好きだった。

以前、天ぷら屋さんで出てきた、
八海山のオリジナルのお銚子。
あの器も、どこかこんな青だった。

だからなのかもしれない。
味より先に、
色の記憶が心に残っている。

そしてもうひとつ。
この青い瓶を見ると、
家族の顔が浮かぶ。
家族は、澪が好きだった。

日本酒らしい強さではなく、
炭酸の軽さと甘さがあって、
飲みやすいのだという。

たしかに澪は、
爽やかな泡とやさしい甘みを持つ、
低アルコールのスパークリング清酒。

なるほど。

だから、日本酒は少し苦手という人にも、
入り口になりやすいのかもしれない。

私は日本酒なら、
もう少し酒らしい輪郭のあるものを
選ぶことが多い。

だから澪は、
「私の好きな一杯」というより、
私の好きな青と、
誰かの好きな味が重なった一本。
そんな位置にある気がする。

日本酒の小径を歩いていると、
お酒そのものの味だけではなく、
瓶の色や、器や、
誰と飲んだか、
誰が好きだったか。

そんな周りの記憶まで、
ひとつの銘柄に宿っていることに気づく。

澪。

水脈という言葉を思わせるその名のように、
記憶の中にも、静かな流れがある。

群青の瓶の中で、
小さな泡がひとつ、またひとつ。

それを魅つめながら、
味ではなく、
青の記憶を飲む。

そんな日本酒の小径も、
たまにはいい。
— Morimura