本日、森村探検隊に新たな任務が下った。
今回の探索場所は——どこかの路地でも、
知らないお店でもない。
森村の記憶の中。
隊長モリリン、出動します。
きっかけは、一缶のチョコレートだった。
今日、お客様からいただいたゴディバ。
包みを開ける。
群青の空。
金色の月。
白いうさぎ。
「わあ、好き」そう思った次の瞬間だった。
どこか遠くにしまわれていたはずの記憶が、
するすると顔を出した。
若い頃、
初めてゴディバの一粒を食べた日のこと。
「これ一粒で板チョコ何枚買えるんやろ」
なんて笑ったこと。
バレンタインになるたび、
「また高くなったんちゃう?」
と文句を言いながら、
それでも結局ゴディバを買っていたこと。
そして自分の分までこっそり買って、
「これはご褒美チョコ」
なんて言っていたこと。
そのうえ——馬にまたがる、
ひとりの貴婦人。
レディ・ゴディバ。
「あっ、そうやった」
今日チョコレートをいただかなかったら、
たぶん私は今日、
彼女のことを思い出していなかった。
忘れていたわけではない。
でも、自分から
思い出そうともしていなかった。
なのに小さな缶ひとつで、
何年も前の記憶がするすると出てきた。
そこでモリリン、ふと思う。
記憶のスイッチって、
どこにあるんやろ?
探検開始。
まずは——「味」のスイッチ。
一口食べた途端、
「ああ、これ」と思う味がある。
子どもの頃に食べたもの。
旅先で食べたもの。
誰かと一緒に食べたもの。
味そのものを覚えているというより、
その向こう側にあった景色まで
一緒に戻ってくる。
次は——「香り」のスイッチ。
雨上がりの匂い。
ふっとすれ違った香水。
お茶の香り。
季節の花。
たった一瞬なのに、
「あ、この匂い知ってる」そう思った瞬間、
時間が巻き戻ることがある。
そして——「色」のスイッチ。
群青。
深紅。
ピンクゴールド。
何かの色を見ただけなのに、
心の奥にしまっていた景色が突然現れる。
今日の私なら、やっぱり群青。
月の浮かぶ群青を見た瞬間、
そこからレディ・ゴディバまで
出てきたのだから、
記憶というものは実に自由である。
さらに——「音」のスイッチ。
昔よく聴いた歌。
遠くから聞こえる電車の音。
雨が窓を叩く音。
鳥の声。
聞こうと思っていなかったのに、
耳に入った瞬間、「あの頃」が現れる。
最後は——「手触り」のスイッチ。
古い本のページ。
昔使っていた鞄。
お気に入りだった服。
何年ぶりかに触れたものから、
突然その頃の自分が顔を出す。
なるほど。
モリリン、ここでひとつ発見。
記憶には、
どうやら入口がたくさんあるらしい。
味。
香り。
色。
音。
手触り。
そして時には、
誰かからいただいた小さな贈りもの。
記憶というものは、
忘れてしまったから
出てこないのではないのかもしれない。
ただ、扉の向こうで静かに待っている。
そしてある日、ほんの些細なことが、
カチッ。
とスイッチを押す。
すると——「ここにいたよ」
と言わんばかりに、
昔の自分まで連れて戻ってくる。
今日の私にとって、
そのスイッチは一缶のゴディバだった。
もし今日、
あのチョコレートをいただかなかったら。
もしあの群青の缶でなかったら。
レディ・ゴディバは、
まだしばらく
私の心の奥で静かに
馬にまたがっていたのかもしれない。
そう考えると、
毎日の中には、
まだ私が気づいていない記憶のスイッチが、
あちこちに隠れているのだろう。
よし。
これからは少しだけ注意して歩いてみよう。
今日の匂い。
今日の音。
今日見つけた色。
何気なく口にしたもの。
ふと触れたもの。
どれかひとつが突然、
何十年も閉じていた扉を
開けるかもしれない。
モリリンの探検場所は、
どうやら外の世界だけではなさそうだ。
心の中にも、
まだまだ知らない小径がいっぱいある。
本日の森村探検隊。
記憶のスイッチ——ひとつ、発見。
でもどうやら、まだまだありそうです。
— Morimura
森村探検隊記憶のスイッチを探せ!
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