八日ぶりの家族との晩ご飯を終えた。

会えなかった間の話を、
ひとつ、またひとつ。

台風の話。
雨の話。
仕事の話。
食材の値上がりの話。

そして、やっぱり最後は料理の話になる。
「今日の西京焼き、うまく焼けたね」
「白甘鯛、おいしいね」
「手作りのお味噌汁、久しぶり」
そんな何気ない言葉を交わしながら、
気がつけば一時間ほど、
ゆっくり食卓を囲んでいた。

明日の朝ご飯、どうする?
そんな話の流れで、
「明日の晩ご飯、うなぎにしない?」
と言ってみた。
けれど返ってきたのは、
「うなぎはいらない。胃もたれするから」
……ちょっぴりがっかり。

私は横浜にいると、
ゆで卵とおにぎりばかり
食べているせいなのか、
今日は妙にたんぱく質が恋しかった。
いや。
正確に言えば、
魚が恋しかった。

だから今夜は魚をたくさん食べた。
ついでに肉団子まで食べた。
そして家族に言った。
「家にいる間、私、絶対に白ご飯食べないから」「なんで?」
「だって横浜に行ったら、
ご飯ばっかりなんだもん。
おにぎりばっかり食べてるから」
そう言うと、
笑われてしまった。

でも、
こんな他愛もない会話ができることが、
なんだかとても嬉しい。

八日間離れていた時間が、
食卓の上で少しずつほどけていくようだった。

食事が終わると、
誰が決めたわけでもないのに、
自然に役割分担ができて、
後片付けもすっと終わった。

私は戻ってきたクリーニングを片付け、
少しだけ服の整理をした。
そして、
ふと外の風に当たりたくなって、
ベランダへ出た。

昼間、
あれほど真っ白だった空は、
いつの間にか群青の世界へ変わっていた。

私、この色が好き。
深くて、
静かで、
それでいてどこか心を惹きつける群青。

山の稜線あたりには、
まだほんの少しだけ、
淡い光が残っている。

その光を魅つめていると、
今朝の鏡の中の自分を思い出した。

今日はどうしてこんなに
肌が輝いているんだろう。
なんだか心まで、
キラキラしているように感じる。
そんなふうに思った朝。

昨日、
横浜最後の夜に、
素敵な時間を
過ごせたからなのだろうと思っていた。

もちろん、
それもきっとある。

でも今、
山際に残る光を魅ていると、
もしかしたら、
この光も少しだけ、
今日の私の中に
映り込んでいたのかもしれないな、
なんて思えてくる。

夜風が、
肌に気持ちいい。
街の灯りも、
ひとつ、またひとつ、
キラキラと輝いている。

慌ただしい朝から始まって、
会社へ行って、
家へ戻って、
荷物をほどき、
また次の旅支度を始めて。

ずいぶん動いた一日だったのに、
今の心は不思議なくらい穏やかだ。

そして、
心のどこかに、
今日もまた小さな光が灯っている。

ああ、風さん。
気持ちいいね。あとは、
少しゴロゴロして。

そうだ。
今日こそ、
心おきなく、
あの群青の世界の扉を開けよう。

時間を気にせず、
心ゆくまで遊んでこよう。

街の灯りが、
またひとつ瞬いた。

じゃあ、風さん。
私、
若様に逢いに行ってくるわね。

群青の
空にほのかな
灯を残し
今宵ゆるりと
扉をひらく

— Morimura