アラームが鳴って、目が覚めた。

とにかく、目が覚めた。
まだ何が何だか、

状況をきちんと理解できていたわけではない。

けれど意識のずっと奥のほうで、
「二度寝してはいけない」
「このアラームで起きなければいけない」
そんな警告にも似た声が
響いていたような気がして、
私はその声に
引っ張られるように起き上がった。

スマホを手に取り、時刻をみきる。

3時。

そこでようやく思い出した。
そうだった。
今日は始発に乗って帰るんだった。

そして、もうひとつ。
目が覚める直前まで、
私はずいぶん長い夢を
見ていたような気がする。

ほんの数秒前まで、
あれほどはっきりしていたはずなのに、
起きた途端、
その夢はふっと霧の向こうへ
消えてしまった。
 
何の夢だったんだろう。
ここまで出かかっているような気もする。
あと少しで思い出せそうな気もする。
でも、思い出せない。

以前の私なら、
きっとここで必死になっていた。
何だった?
誰が出てきた?
どこにいた?
何をしていた?
記憶の糸をたぐるように、
夢の続きを追いかけていたと思う。

けれど今朝の私は、
不思議なくらいあっさりしていた。
まあ、いいか。
何かの拍子に思い出すかもしれない。
思い出さないままでも、
それでいい。

夢は夢のほうから、
必要になったらまた戻ってくるだろう。
そんな適当さが、
今朝は妙に心地よかった。

お風呂にお湯を入れる。
お湯がたまるまでの少しの時間、
こうして朝の一言を語っている。

そして頭の中はというと、
なぜか朝一番から洗濯のことばかり。
今回は荷物を置いて帰る。
だから、
いつものように全部を片付けて帰る必要がない。

それなら、
朝のうちにバスタオルやタオル、
下着くらいは洗って干して帰れないかな。

今は別の洗濯物が回っている。
脱水が終わったところで
少し止めさせてもらって、
そこへ私の洗濯物をちょっと横入り。
時短コースでパッと洗って、
終わったら元の洗濯物を戻して、
そのまま乾燥へ。

うん。

たぶん、これならいける。
なんだか始発で帰る朝だというのに、
一番真剣に考えているのが
洗濯機の段取りというのも、
私らしくて少し笑ってしまう。

でも今回は、
荷物を全部まとめて帰る朝ではない。
だからなのだろうか。
不思議と、
「ここを離れる」という感覚が薄い。
しばらくお別れ。
そんな寂しさも、
今朝はあまり胸に浮かんでこない。

ちょっと出かけて、
またすぐ戻ってくる。
そんな気分でいる。

そして今、
心が向いている先は、
横浜を離れることではなく、
家へ帰ることだった。

6日ぶりの我が家。
家族の顔。
「おかえり」そう笑って迎えてもらう光景を
想像すると、
胸の奥がふわっとあたたかくなる。

早く帰りたい。
今すぐにでも、
飛んで帰りたい。

横浜に背を向ける寂しさより、
帰る場所へ向かう嬉しさ。
今朝の私は、
どうやらそちらのほうがずっと大きいらしい。

夢は消えてしまったけれど、
帰る場所はちゃんとわかっている。
だから今朝は、それでいい。

まずはお風呂。
そして洗濯。

そのあと、
私は始発に乗る。

今日の朝は、
「さよなら」から始まるのではなく、
「ただいま」へ向かって
静かに動き始めている。

夢ほどけ
記憶の淵へ
消ゆるとも
帰る灯りは
胸にあたたか

— Morimura