時刻は3時半を回った。
「ああ、眠たい……」
「もっと寝ていたい……」
そんなことを言いながら、
モリリンとヒカリンが
眠たい目をこすって起きてきた。
そして、森村さんの姿を見てびっくり。
「えっ、森村さん、早い!」
「もうお風呂終わったの?」
モリリンが目を丸くする。
「何時に起きたんだろう……あ、そうだ」
ヒカリンも思い出した。
「森村さん、
3時にアラームセットしてなかった?」
「そうだった!」
二人で顔を見合わせる。
昨日は寝る前、 スマホ片手に、
誰かとのやり取りに
少し心がふわりと揺れるような
時間を過ごしていて、
結局眠ったのは1時20分頃。
「ということは……ほとんど寝てないよね」
「でも森村さん、
昨日までに4回に分けて睡眠貯金してたもん」「合計8時間くらい?」
「なるほど」モリリンとヒカリン、
なぜか納得して、
「うんうん」と同時にうなずいた。
「森村さん、おはよう」
「おはよう」
「今日は前回みたいに二度寝せず、
ちゃんと起きられたね」
「そうよ。もうこの時間に起きられたら、
よほどのことがない限り間に合うから、
ちょっとほっとしてるの」
するとモリリンが言った。
「じゃあ森村さん、
今日は窓を開けて風さんも
お部屋に入れてあげようよ」
「そうね。じゃあ開けるわね」
窓を開ける。
ひんやりした朝の空気が部屋へ入り込んだ。
すると、ふわり。
待っていましたとばかりに、
風さんも部屋の中へ。
「おはよう」「風さん、おはよう!」
こうして今日は三人で、
いつもより少し……いや、
かなり早い森村さんのオアシス時間を
実況中継することになった。
森村さんは、
お風呂上がりの汗が引くのを待ちながら
日記を書いている。
ところが突然、
部屋の扉を開けた。
そして、じーっ。
耳を澄ましている。
「森村さん、何を聞いてるんだろう」
ヒカリンが首をかしげる。
「わからない」モリリンも首をかしげる。
「風さん、どう思う?」
風さんが、ふわり。
「洗濯機の音を聞いてるんじゃない?」
「あっ!」三人とも納得。
そうだった。
森村さんは、
今回は荷物を置いて帰る。
だから朝のうちに、
バスタオルやタオル、
下着などを洗濯して、
できれば干してから帰りたい。
ただし今、
洗濯機では別の洗濯物が回っている。
狙っているのは、
脱水終了から乾燥開始までの一瞬。
そこへ自分の洗濯物を
横入りさせようとしているのだ。
「なるほど」ヒカリンが言う。
「脱水が終わるのを待ってるんだね」
「そうみたい」
その間に森村さん、
お風呂を洗うか、
洗濯物を先に入れに行くか。
一瞬考えた。
「あっ、森村さん、お風呂のほうへ行ったよ」「ほんとだ」お風呂を洗い、
洗面所のあたりもサッとお掃除。
そして部屋へ戻ってきた。
でも、まだ脱水は終わっていない。
森村さん、
身体を拭いて服を着る。
洗濯するものをネットにまとめる。
それでも、まだ終わらない。
今度は野菜ジュースを飲み始めた。
「待ってるねえ」
「待ってるねえ」
ところが森村さん、
だんだん我慢できなくなってきたらしい。
また洗濯機の方へ。
ヒカリンが小声で言う。
「モリリン……森村さん、
ちょっとイライラしてない?」
「してると思う」
「森村さん、
待つのあんまり好きじゃないもんね」
「自分のペースで、
さっさと進めたい人だからね」
しばらくして――森村さんが帰ってきた。
その顔は、にやり。
「あっ」「終わったんだ」
どうやら脱水が無事終了。
自分の洗濯物を横入りさせ、
お急ぎコース、スタート。
成功。
ところが。
「あれ?」また森村さん、
洗濯機の方へ。
「今度は何?」
「私、見てくるわ」風さんが言った。
ふわり。
そしてすぐに、ふわり。
戻ってきた。
「洗濯が何分で終わるか確認してたみたい」
「何分?」
「26分」
「さすが森村さん」時刻は3時54分。
26分なら、4時20分には終わる。
モリリンとヒカリンが顔を見合わせる。
「だから帰ってきた時、にやっとしてたんだ」「計算が合ったんだね」
これで安心した森村さん。
鏡の前へ。
スキンケア。
ドライヤー。
そしてメイク。
メイクまで終われば、
メイクポーチもキャリーケースへ入れられる。
「ということは……」
「キャリーケース、閉められるね」
カチッ。
帰る準備が、
ひとつずつ整っていく。
風さんも
部屋の中をくるくる回りながら言った。
「なんだか間に合うって分かっただけで、
私たちまでほっとするわね」
「ほんとほんと」ところがまた。
「あれ?」ヒカリンが首をかしげた。
「森村さん、また洗濯機の方へ行くよ」
「まだ26分経ってないよね?」
「何しに行くんだろう」
するとモリリンが指をさした。
「ヒカリン、違うよ。ほら、手」
「手?」「肉まん持ってる」
「あっ!」そう。
今度の目的地は洗濯機ではない。
キッチン。
電車の中で食べる朝ごはん用の肉まんを、
電子レンジで温めに行ったのだ。
「今日の朝ごはん、肉まんなんだ」
「そうみたい」
やがて、ピーピーピー。
電子レンジの音。
「あっ、鳴った!」
森村さん、走る。
そして少しほっとした顔で、
熱々の肉まんを持って戻ってきた。
肉まんはまだ熱いので、
しばらく冷ます。
キャリーケースは、カチッ。
閉まった。
あとは洗濯物を干せば、
帰る準備はほぼ完了。
「よかったねえ」
「うん」
「じゃあ、それまで森村さん」
モリリンがにっこり。
「暴れん坊将軍、ゆっくり観て楽しんでね」
「洗濯が終わるまでは、
束の間のオアシス時間です」
風さんが、ふわり。
それでは――実況ナビゲーター、モリリン。
アシスタント、ヒカリン。
そして風さんがお届けしました。
始発までの時間は、
まだ少しだけ続く。
つづく。
— Morimura
森村さんのオアシス時間|始発前、26分との勝負!
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