いつも乗っている始発に、無事乗れた。
「モリリン、ヒカリン。よかったね」
「よかった、よかった!」
ヒカリンが嬉しそうにぴょこん。
モリリンも、ほっとした顔で言った。
「今日はまだ安心して見ていられたわ」
そう。
やっぱり前回の寝坊が、
森村さんには相当こたえていたのだろう。
今日は朝から、
何をするにも慎重だった。
時間を確認して。
また確認して。
遅れないように。
失敗しないように。
何か忘れていないか。
ミスしていないか。
いつもの森村さん以上に、
ずっと時間を意識しながら動いていた。
だから電車に乗った瞬間、ふうっ。
肩から何かが抜け落ちたようだった。
心を縛っていた紐が、
するりとほどけたような気分。
「よっこらしょ」
森村さんが座席に腰を下ろす。
その隣にモリリン。
そして、
その隣にヒカリン。
三人並んだ。
「さあ、一緒に帰ろうね」
「あっ」モリリンが思い出した。
「風さんは?」
三人で少し考える。
「風さん、新幹線には乗れないよね」
「後ろから追いかけてきてるのかな」
ヒカリンが言う。
「それとも先に向こうの街へ行って、
待ってるんじゃない?」
それも、
風さんらしい。
きっとどこかで、ふわり。
三人の帰り道を見守っている。
さて。
緊張がほどけた途端、
今度はお腹が目を覚ました。
「なんか、お腹空いちゃった」
森村さんが言う。
「空いた、空いた!」
ヒカリンは、
待ってましたとばかり。
「今日はね、
みんなで肉まんを食べようと思って、
温めて持ってきたの」
「肉まん!」ヒカリンの目が輝いた。
お土産を買いに行ったとき、
たまたま見つけた崎陽軒の肉まん。
ちょっと気になって、
お試しで2個買ってみた。
「みんなの分もあるわよ」
……と思ったところで、
「あっ」
森村さんが気づく。
「風さんは食べられないわね。
風さんの分が余っちゃう」
その瞬間。
「ほしい! ほしい!」
ヒカリン。
即答。
モリリンが呆れたように見る。
「ヒカリン、2個も食べられるの?」
「大丈夫! 肉まん好きだから!」
まったく迷いがない。
さすが、
食いしん坊ヒカリン。
崎陽軒の肉まんは、
袋のまま電子レンジで1分10秒。
それだけで食べられる。
「これ、待機所で食べるには便利なのよね」
だからお試しで2個買って、
残った1個を今朝の電車朝ごはんにした。
ぱくり。
「うん。なかなか美味しい」
でも、少し気になる。
「やっぱり私には、ちょっと肉肉しいかな」
筍の食感が入っているおかげで、
肉の重さはいくらか和らいでいる。
でも森村さんとしては、
「もうひとつあった、
トマト・チーズまんのほうが
よかったかもしれない」
「あんまんもあったよね」
「そう。次はあんまんに挑戦してみようかな」
そもそも森村さん、
肉肉しいものが、あまり得意ではない。
そして改めてパッケージを見る。
大きく、肉まん。
「……この文字からして肉肉しいのよね」
モリリンが笑う。
「じゃあ、“豚まん”なら?」
「あっ。それよ」
肉まんより、豚まん。
なぜだろう。
少しだけ、
肉肉しさが薄まる気がする。
そして森村さん、
ひらめいた。
「そうだ! 次に来るとき、
551の豚まんのチルド4個入りを
買ってこようかな」
「551!」モリリン。
「551!」ヒカリン。
二人とも反応が早い。
「冷蔵で5日くらい持つみたいなの」
「私も551好き!」とモリリン。
「やっぱり551!」とヒカリン。
ところが。
モリリンが、ふと真顔になる。
「でも森村さん。4個入りだったら、
私とヒカリンの分がないんじゃない?」
ヒカリンも、
じーっ。
「4個だと、帰るまでに
森村さんが全部食べちゃうでしょ?」
二人そろって、
うん。
うん。
と言わんばかりに、
首を縦に振る。
「ちょっと!」
森村さん、苦笑い。
でも問題は、
そこではなかった。
「次の横浜ステイ、8日間なのよ」
「えっ?」モリリン。
「ええっ?」ヒカリン。
「だから、帰る日まで日持ちしないの」
モリリン、がっかり。
ヒカリンは、
もっとがっかり。
「冷凍すれば?」モリリンが提案する。
「それも考えたんだけどね。
チルド商品の冷凍は、
あまりおすすめじゃないみたいなの」
「ええーっ!」
ヒカリン、本気で残念そう。
森村さんは、
しばらく考えてから笑った。
「でも私も、
帰りの新幹線で551の豚まん食べたいから」
二人が森村さんを見る。
「ちょっと考えてみるね」
その瞬間、モリリンとヒカリンの顔が、
ぱっと明るくなった。
こうして始発の車内では、
帰る朝の緊張はすっかり消え、
いつの間にか、
次の横浜ステイの豚まん計画会議が
始まっていた。
窓の外では、
朝の景色がどんどん後ろへ流れていく。
向こうの街へ帰る道。
でも三人の話はもう、
次にこちらへ戻ってくる日のことへ、
少しずつ向かい始めていた。
— Morimura
帰路のひと幕|肉まんひとつ、ほっとひと息!
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