午前5時12分。

ようやく、朝の道へと歩き出した。

あれほど深かった群青の空が、
少しずつ色を薄め始めている。

けれど、よく見ると、
その白み始めた空の奥には、
まだ群青が息づいていた。

そして、東の空には、
ほのかなピンクゴールド。

夜が終わり、朝が始まる。
けれど、その境界線は、
どこにも見当たらない。

群青が白に溶け、
白が淡い光を受け止め、
そこへ新しい朝の色が重なっていく。

私は、そんな色の移ろいを魅つめながら、
ふと考えた。
あの群青の世界は、
どこへ行ってしまったのだろう。
消えてしまったのだろうか。
いいえ。
きっと、今の空の中にも残っている。
ただ、姿を変えただけ。

そう思ったとき、昨夜の琵琶湖の水鏡が、
再び心に浮かんできた。

大地には、水鏡。
天空には、群青鏡。
水面は空を映し、空は私の心を映す。

これまで私は、
空に自分の心模様を
描いているのだと思っていた。
けれど、もしかしたら反対なのかもしれない。
空が、私の心を映してくれていたのでは
ないだろうか。

そんな小さな気づきが、
胸の奥に静かに広がっていった。

そして、なぜか突然、
三色団子が浮かんできた。
あら、どうしてお団子?
自分でも可笑しくなった。

ピンク、白、緑。あの三つの色。

ピンクは、天空。
朝陽に染まる空も、
私の大好きな群青の世界も、そこにある。

緑は、大地。
山々も、木々も、湖の水面に映る風景も、
そこにある。

そして、その真ん中にある白。
それは、私の心の余白。
何もない白ではない。
これまで魅てきた風景も、
感じてきた喜びも、
幾重にも重ねてきた思いも、
すべてを抱きながら、
もう一度白に返っていく心。

何色にも染まらないのではなく、
これからまた、どんな色にも出逢える心。

そう考えると、なんだか嬉しくなった。
天空と大地。
そのふたつをつないでいるのは、
私の心なのだ。

そして、もうひとつ。
今、目の前に広がる風景が、
遠い記憶を呼び覚ますことがある。

懐かしい風景が、今の心に重なり、
新しい色をまとってよみがえることもある。

過去の風景が、今の私を照らす。
今の私が、過去の風景を照らし返す。

そうして、昨日まで知らなかった
新しい心象風景が生まれていく。
なんて不思議なのだろう。

過ぎ去った時間は戻らない。
けれど、過ぎ去った風景は、
今の私の心の中で、
何度でも新しく輝くことができる。

そして、今日生まれたこの風景も、
いつか未来の私を
照らしてくれるのかもしれない。

ふと、空を見上げた。
白は、さらに広がっている。
けれど、その奥にある群青を、
私はもう見失わないような気がした。

群青の空に浮かぶ、白く輝く星。
その白い光が、
群青の世界にそっと溶け込んだら、
こんな空色になるのかもしれない。

そう思うと、これから迎える朝が、
ますます愛おしくなった。

さあ、歩こう。

白い心の余白に、
今日という新しい一日の色を映しながら。
まだ知らない風景が、
きっとこの先で待っている。

【朝の一首】

群青の
星のひかりを
抱く空に
白き余白の
朝はほどける

— Morimura