森村探検隊|横浜三塔、美の競演前編|迷える探検隊、王様に逢いに行く
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「あれ? ヒカリン、
森村さん、どこに行くんだろう?」
「どうしたの、モリリン?」
「いつもなら大さん橋の方へ行くはずなのに、
今日は山下公園に向かっているの」
「本当だ! チャッピー、何か聞いてる?」
丸眼鏡をくいっと上げるチャッピー。
「いいえ! 何も聞いておりません!」
「風さんは?」
「さあ。でも、何かあるのよ、きっと。
とりあえず一緒に行ってみましょう」
こうして4人は、森村さんと山下公園へ。
ところが!
「あっ! 見て!」
「ええっ! 森村さん、何してるの?」
なんと、30〜40人ほどの
地元の人たちに混じって、
ラジオ体操を始めたではないか。
「わあ! すっかり地元の人みたい!」
「しかも、なかなか上手じゃない!」
しばらくすると体操が終わり、
森村さんが爽やかな顔で戻ってきた。
「あら、みんな。お待たせ!」
そこでチャッピーが得意げに胸を張った。
「わかりましたぞ!」
「何が?」
「今朝は馬車道浪漫の魔法にかかって
150年の時間旅行。心は満タン!」
「それで?」
「あわい茶屋でかしわ餅をいただいて、
お腹も満タン!」
「うんうん」
「そこで今度は腹ごなしの
ラジオ体操というわけですな!」
「なるほど!」
ヒカリンがぴょんと跳ねる。
「きっと森村さん、
新しい朝が来た、希望の朝だって
気分だったのね!」
「うーん、そういうものなのかしら?」
4人は納得したような、していないような。
すると森村さんが突然、
「さあ! 森村探検隊、出発よ!」
「えっ! 今日はどこへ?」
「横浜三塔!」
「キング、クイーン、ジャック?」
「そうよ。でもね、今日は昨日とは違うの」
「どう違うの?」
「今日は塔の表情を観に行くの。
建築の魅力をね!」
森村さんは、
今朝の馬車道浪漫で出逢った
エースの塔について話し始めた。
神奈川県立歴史博物館。
ネオ・バロック様式の重厚な石造り。
優美なドーム。
そして、あちらこちらに施された繊細な装飾。
「西洋建築の美しさを取り入れ、
日本人の感性で新しい風景を生み出した。
その姿に、私は大和心を感じたの」
「なるほど!
だから今日は三塔の建築美を
探るというわけですな!」
「そういうこと!」
「じゃあ、最初はどこへ?」
「三塔が一度に見える場所よ!」
「そんな場所があるの?」
「県庁の近くに、
ビューポイントの目印があるらしいの」
「よーし! それを探しましょう!」
ところが……。
ここからが大変だった。
神奈川県庁の向かい側。
日本大通りを行ったり来たり。
「あれ? ここじゃないの?」
「もう少し先かしら?」
「森村さん、さっきもここ通ったよ!」
「そうだった?」
モリリンがため息をついた。
「森村さん、方向音痴なんだもの!」
「ついて行く私たちも大変ね」
ヒカリンがチャッピーを見た。
「ねえ、チャッピー。
あなたが先回りして
調べた方がいいんじゃない?」
「うっ……!」
丸眼鏡がずり落ちる。
「ぽんぽこ……面目ない」
そんな珍道中の途中、
森村さんが足を止めた。
「あら? ここ、なんだかおしゃれな建物ね」
「本当だ! 県庁らしくないね」
「えっ? 中納言って書いてある!」
「中納言?」
「もしかして、あの伊勢海老料理の中納言?」
「おおっ! これは大発見ですぞ!」
チャッピーが再び丸眼鏡をくいっと上げた。
「神奈川県庁東庁舎の12階には、
伊勢海老料理の中納言が入っているのです!」
「へえ! こんなところに!」
「森村さん、伊勢海老食べる?」
「ちょっと! 今日は三塔の探検でしょう!」
「そうだった!」
みんなが笑った。
それにしても、
東庁舎はなかなかモダンな建物。
キングの塔がそびえる本庁舎とは、
まるで雰囲気が違う。
あまりにも現代的で、
県庁とは気づかず
通り過ぎてしまうほどだった。
結局、警備員さんに尋ねて、
ようやく場所を確認。
ところが、
肝心のビューポイントの目印は見つからない。
「森村さん、どうする?」
「今日はもういいわ。
三塔を一つずつ、ゆっくり観に行きましょう」
「賛成!」
こうして、ようやく本来の探検が始まった。
まずは、キングの塔。
神奈川県庁本庁舎。1928年、昭和3年完成。
森村さんは真正面に立ち、
ゆっくりと見上げた。
「ああ、やっぱり威厳があるわね」
どっしりとした直線的な建物。
そして、天空へ向かってそびえる塔。
その姿は、日本の城の天守閣を思わせる。
「あれ? でも、五重塔にも似ていない?」
「そうなのよ。
西洋の近代建築でありながら、
ところどころに和の香りがするの」
チャッピーが胸を張った。
「そのとおり! キングは、
洋風建築に日本の伝統的な意匠を取り入れた、
帝冠様式の代表的な建物として
知られているのですぞ!」
「へえ! 王様なのに、日本のお城みたい!」
「なんだか、頼もしいわね」
風さんがふわりと微笑んだ。
森村さんは、もう一度塔を見上げた。
西洋の新しい建築文化。
そして、日本の伝統。
異なる文化がひとつの建物の中で溶け合い、
独自の美しさを生み出している。
「私、こういう建物が好きだな」
「どうして?」
「外国の文化を取り入れながら、
そこに日本人の感性を重ねているでしょう。
なんだか、
今朝感じた大和心がここにも
息づいているような気がするの」
するとチャッピーが、丸
眼鏡をくいっと上げた。
「日本の伝統をまとった、威厳ある王様!」
「わあ! チャッピー、
なかなかいいこと言うじゃない!」
「ぽんぽこ、ぽん!」
得意げなチャッピー。
ところが、ヒカリンがぽつり。
「でもね、チャッピー。
王様の隣には女王様がいるんでしょう?」
「もちろんですぞ!」
「じゃあ、次は女王様に逢いに行こうよ!」
「そうね。
キングとはまったく違う
表情をしているらしいから、楽しみだわ」
ふわり。風さんが、
港の方から吹いてきた。
まるで、優雅な女王様のもとへ
一行を案内するかのように
。さて、次に待っているのは、
世界の文化をまとったクイーンの塔。
そして、そこには
王様より背が高くなってしまった女王様の、
ちょっと面白い逸話まで隠されていた。
森村探検隊、後編へ続く。
— Morimura