「さあ、次は女王様に逢いに行くわよ!」

「はーい!」キングの塔に別れを告げ、
一行が向かったのは横浜税関。
クイーンの塔である。

「わあ! キングとは全然違う!」

モリリンが空を見上げた。

堂々とした直線が印象的なキングに対し、
クイーンは柔らかな曲線をまとっている。
緑青色のドームが、
青空に優雅に浮かんでいた。

「なんだか、ヨーロッパの宮殿みたい!」

「でもね、イスラム建築の雰囲気もあるのよ」

森村さんが建物を見つめながら言った。

「昨日はタージ・マハルを思い出したけれど、
今日はヨーロッパの大聖堂も連想するわ」

そこでチャッピーが丸眼鏡をくいっと上げた。

「それもそのはず!
クイーンにはイスラム建築を思わせる意匠や、
古代インド建築風の柱など、
さまざまな文化の要素が
取り入れられているのですぞ!」

「へえ! 世界中の文化をまとっているのね!」

ふわり。

風さんが優しく微笑んだ。

「まさに、異なる文化の『あわい』から
生まれた女王様ね」

森村さんもうなずいた。

世界の文化をまとった、優雅な女王様。
そんな言葉がぴったりだった。

ところが!

「皆さん! この女王様には、
面白い秘密があるのですぞ!」

「えっ? 秘密?」

「実はクイーンの塔、
キングより背が高いのです!」

「ええっ! 王様より女王様の方が大きいの?」

ヒカリンが目を丸くした。

クイーンは51.46メートル。
キングは48.60メートル。
その差、わずか2.86メートル。
当初の設計ではキングより低かったものの、
当時の税関長の意向によって
高くなったという逸話が残っている。

「へえ! 女王様にもこだわりがあったのね!」

「でも私、キングの方が高い方が好きだな」

森村さんがぽつり。

「だって、やっぱり王様には
一番高いところから見守っていてほしいもの」

するとモリリンが笑った。

「でも、背の高い女王様も素敵じゃない?」

「そうね。それぞれに威厳と誇りが
あるということかしら」

「ぽんぽこ、ぽん! 王様も女王様も、
なかなか譲れないものがあるようですな!」

一同、大笑い。

さて、最後に向かったのはジャックの塔。

横浜市開港記念会館である。

「あっ! 見えてきた!」

「わあ! なんだか
童話に出てくるお城みたい!」

赤レンガと白っぽい花崗岩。
その美しい色の組み合わせが、
青空の下でひときわ華やかに映えている。
そして天空へ伸びる時計塔。

「なんだか、空に向かって
時を刻んでいるみたいね」

森村さんは建物をゆっくり眺めた。
斜めから見れば、
八角形のドームや四角いドーム。
入口にも繊細な装飾が施されている。

「昨日は見つけることで精一杯だったけれど、
こうして観ると、
本当におしゃれな建物ね」

「ジャックは1917年、
大正6年に完成した建物ですぞ!」

チャッピーが得意げに説明する。

「建築様式はフリークラシック。
さまざまな西洋建築の要素を
自由に組み合わせているのです!」

「なるほど! だからこんなに華やかなのね!」

森村さんは、もう一度時計塔を見上げた。
大正浪漫を奏でる、童話の国の貴公子。
そんな姿が目に浮かんだ。

「ねえ、みんな。
なんだか今日は建物と
お話ししているみたいだったわね」

「本当だね!」

モリリンがうなずいた。

「昨日は三塔を見つけたけれど、
今日は三塔の心を観たような気がする!」

すると森村さんが、ふと思いついた。

「ねえ、いつか横浜三塔物語を
書いてみたいな」

「えっ! 三塔が主人公?」

「そうよ。王様と女王様、
そしてふたりに仕えるジャック」

「わあ! 面白そう!」

「キングはクイーンに愛を語り、
クイーンはキングを心から慕っている。
そしてジャックは、
ふたりを忠実に守っているの」

風さんがふわりと笑った。

「きっと、
三塔が一度に見える場所に立ったら、
そんな会話が聞こえてくるかもしれないわね」

「そうなの! だから、
どうしてもあのビューポイントに
行ってみたいのよ」

チャッピーが胸を張った。

「では、明日の探検は決まりですな!」

「横浜三塔、幸運のビューポイントを探せ!」

「今度はちゃんと案内してよ、チャッピー!」

「ぽんぽこ……努力いたします!」

こうして三塔巡りを終え、
一行は吉田橋へ。

橋を渡り、関内から関外へと戻ってきた。

「あれ? 森村さん、
さっきから後ろばかり振り返っているよ」

「やっぱり関内が恋しいのかな?」

「それに、
まだ中納言の君にも逢えていないものね」

風さんがいたずらっぽく笑った。

「ふふふ。それはまた、いつかのお楽しみ!」

そして、ようやくゴール。
クールダウンの
ストレッチを終えた森村さんは、
いつもの小さな空を見上げた。

そこには、もう群青の世界はなかった。

一面に広がる白い空。
その合間には、
限りなく透明に近い淡いブルー。
もくもくと浮かぶ白い雲。

「ねえ、モリリン。
あの空、森村さんの心みたいね」

「どうして?」

「昨日の余韻と、
今日見つけたたくさんの物語。
そして、これから広がる心の余白。
全部が混ざり合っているような気がするの」

「そうね。きっと今も、
森村さんは『あわい』を感じているのね」

ふわり。

風さんが優しく通り抜けた。

そこでチャッピーが丸眼鏡をくいっと上げた。

「皆さん!
本日の森村探検隊、
これにて終了でございます!」

昨日は三塔を見つけた。
今日は三塔の心を観た。
そして明日は、
三塔が語り合う姿を探しに行く。

点を結べば線になる。
線を結べば面になる。
そして、その道を自分の足で歩けば、
物語になる!

「さあ、みんな。また明日ね!」

「はーい!」

ぽんぽこ、ぽん!


🎬 森村探検隊・本日のエンドロール

主演|森村さん
方向音痴でも探究心は人一倍。
王様より背の高い女王様には少々不満。

探検助手|モリリン
本日の最大任務は、
森村さんを見失わないこと。

癒やし担当|ヒカリン
ラジオ体操に三塔巡り。
今日も元気いっぱい!

道案内担当|チャッピー
ビューポイント探しに失敗。
丸眼鏡のずり落ち回数、記録更新中。

特別出演|風さん
王様と女王様の恋物語に、
ひとり胸をときめかせる。

友情出演|中納言の君
12階から優雅にお待ちかね。
本日はご対面ならず。

次回予告
『横浜三塔|幸運のビューポイントを探せ!』

「チャッピー、明日は迷わないでしょうね?」「もちろんですぞ! 今度こそ完璧です!」
「それ、今日も言ってなかった?」
「…………」
丸眼鏡、再びずり落ちる。
一同、大爆笑!
ぽんぽこ、ぽん!🦝

ー Morimura