今朝の群青は、いつもとは違って魅えた。

いや。

空が変わったわけではない。

変わったのは、
空を魅つめる私の心だったのかもしれない。

これまで、幾度となく星空を見上げてきた。

「ああ、星が綺麗ね」
そう呟いては、その輝きを楽しんでいた。

けれど、今朝は違った。

ひとつの星に出逢い、もうひとつを探す。
そして、3つの星を結んだ瞬間、
天空に美しい三角形が浮かび上がった。
冬の大三角。
シリウス、プロキオン、ベテルギウス。

昨日まで、
名前を知ることさえなかった星たちが、
今朝はひとつの物語を
語り始めたような気がした。

不思議なものだ。

名前を知り、
位置を確かめ、
互いの関係を知ろうとするだけで、
星はこんなにも身近な存在になるのだろうか。 

ふわり。

風さんが私の頬を撫でた。

「ねえ、森村さん。
星たちは昨日もそこにいたのよ」

「そうね、風さん。
でも、昨日までの私は、
あの星たちを知らなかったのね」

ビルの切れ間から見つけた小さな光。
写真を撮り、方角を調べ、
チャッピーに尋ねる。

ひとつの星を追えば、また次の星。
いつしか私は、星を眺めるだけではなく、
星たちの語らいに
耳を澄ませるようになっていた。

そして吉田橋。

少し広がった群青の空に、
ふたつの星が輝いていた。
ひとつは白く。
もうひとつは、ほんのり赤みを帯びて。
まるで、互いを魅つめ合うように。

夜明け前のランデブー。

その言葉が、再び心に浮かんだ。

遠く離れていても、互いの存在を感じ合う。
言葉を交わさなくても、
その輝きが心に届く。
そんなふうに思えた。

星の名前をすべて確かめられたわけではない。
それでもいい。
今朝、私が見つけたのは、
星の名前だけではなかったのだから。

知ろうとすることで、
今まで見えなかった世界が広がっていく。

そして、その世界に心を寄せることで、
何気ない風景が物語へと変わっていく。

ああ。

なんて素敵なことなのだろう。
ふと足元を見ると、そこには吉田橋。

そして、その先には馬車道。
まだ群青の余韻が残る街並みに、
柔らかな風が吹き抜けた。
私は、もう一度空を見上げた。

星たちは少しずつ、
夜明けの光の中へと姿を隠そうとしていた。

けれど、その輝きは、
もう私の心の中にある。

星を知ることは、世界を知ること。
そして、世界を知ることは、
自分の心に新しい景色を迎えること。
そんな小さな発見を胸に、私は歩き始めた。

すると、どこからか、ふわり。
生ぬるく、柔らかな風。
まるで、次の物語へと誘うように。

今朝の天空の旅は、
静かに幕を閉じようとしていた。

そして私は、
まだ知らない時代の扉へと足
を踏み入れようとしていた。


群青に
ふたつの光
見つめ合う
名も知らぬまま
朝を分け合う

— Morimura