午前0時少し前に、
今日のお仕事を終え、
伊勢佐木モールを歩いている。

時計の針は、ちょうど午前0時を指していた。

今夜の風は、とても冷たい。
つい先ほどまで、
眠くて眠くて仕方がなかったのに、
頬を撫でる冷たい風に、
頭の中までシャキッと目覚めてしまった。

ああ、気持ちいい。

そして、また言葉を綴りたくなった。

空を見上げる。
そこには、
いつもの美しい群青の世界が広がっていた。

朝、あの空に輝いていたのは星。
けれど今夜は、
群青の空に、
白妙の雲がほのかにたゆたっている。

何の形なのだろう。
何にたとえればいいのだろう。
よくわからない。
でも、不思議と心惹かれる。

形になりそうで、まだならない。
何かが生まれそうで、まだ生まれない。
その曖昧な輪郭が、
今の私の心模様に重なって魅える。

そう。

今夜の私の中にも、
まだ名前のない何かがある。
それは、言葉になる前の想い。
風景になる前の色。
物語になる前の、小さなときめき。

けれど、確かに何かが生まれようとしている。
そんな予感に、心が満たされている。

ふと、勝烈庵で出逢った棟方志功の書が、
心に浮かんだ。

「無事」

あの力強い筆跡。

禅の世界では、
ただ何事も起こらない
という意味だけではなく、
余計なものを求めず、
あるがままの自分に立ち返る
境地にも通じるという。

私には、まだその深い意味を
十分に理解できていないのかもしれない。

でも、今夜の私は思う。
無理に答えを見つけなくてもいい。
まだ形にならないものを、
急いで形にしなくてもいい。

ただ、心の余白をいっぱいに開き、
素直な喜びと感動に身を委ねていたい。

而今。

過ぎ去った昨日でもなく、
まだ訪れていない明日でもない。

今、この瞬間。

頬に触れる冷たい風。
群青の夜空に、
白妙の雲が静かにたゆたっている。
その淡い移ろいを、
心の奥深くで感じていたい。

そして、もう一つ。

「大和し美し」
棟方志功が作品に託した、あの言葉。
私が昔から大切にしている「大和心」と、
どこか深いところで響き合っている。

山も、川も、海も、空も。
そして、そこに生きる人々の心も。
目に映る姿だけではなく、
その奥に宿る、言葉にならないもの。
私はこれからも、
それを追い求めていきたい。

誰かの世界をなぞるのではなく、
私が感じ、私が想い、私が心に描く、
私の、私だけの「大和し美し」の世界を。

群青の空を、もう一度見上げた。
その白い雲は、相変わらず曖昧なまま。
けれど、今夜はそれでいい。

まだわからない何かがあるからこそ、
私は明日もまた、歩きたくなるのだろう。

そういえば、明日は横浜三塔の探検。
キング、クイーン、ジャック。
まだ名前のない王国への扉が、
いよいよ開くかもしれない。

そう思うだけで、胸がワクワクしてくる。
ああ、早く明日にならないかしら。
でも、今夜はもう眠らなくちゃ。

冷たい夜風に目を覚まされた心を、
今度はそっと夢の中へ連れていこう。
まだ見ぬ世界に、心をときめかせながら。

群青の夜。

その淡い雲の向こうには、
まだ私の知らない物語が眠っている。
そして、私は思う。
明日もまた、私の心のままに。

群青に
淡くたゆたう
雲を見て
まだなき世界
心に描く

— Morimura