森村探検隊|三塔の王国を探せ!前編|女王様の輝きに魅せられて
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「さあ、みんな!
今日はここから森村探検隊のスタートよ!」
赤レンガ倉庫の広場で、
森村さんが宣言した。
いつもなら、大さん橋の方へ歩き出す時間。
けれど今朝は違う。
海で魅了つめた雲間の三筋の光が、
まるで三塔への道しるべに思えたのだ。
「えっ、もう? 大さん橋に行かないの?」
モリリンが目を丸くする。
「この近くに三塔が一度に見える
場所があるんですって。
まずは第一のビューポイントを探すわよ!」
「場所はわかってるの?」
「そんなの、わかるわけないじゃないの」
「ええーっ!」
ヒカリンまでずっこけた。
「チャッピー、すぐに調べなさい!」
「承知しましたぞ、隊長!」
丸眼鏡をくいっと上げたチャッピーによれば、
プレートは赤レンガ倉庫の建物の間ではなく、
象の鼻パークへ向かう
海沿いの石畳にあるらしい。
「あら、私が毎朝歩いている道じゃない!」
柵沿いに海を眺め、
象の鼻パークへ向かう、おなじみの小径。
いつも何気なく踏みしめていた石畳の中に、
そんな秘密が隠れていたなんて。
全員、いっせいに足元を見つめる。
「ねえ、ヒカリン。
私たち、
空にそびえる塔を探しているんだよね?」
「うん!」
「それなのに、誰ひとり空を見ていない!」
「あははは!」
風さんまで、ふわりと視線を落としている。
「上を見たり下を見たり。忙しい朝ね」
チャッピーだけが、
プレートの場所を調べながら、
ぽんぽこ解説を続けていた。
そもそも今朝は星を探して
天空ばかり見上げていたのに、
今は足元に夢中。
自分でもおかしくなってしまう。
ところが、なかなか見つからない。
「ないわねえ」
「こっちかな?」
「あっ! あったよ、ここだよ!」
ヒカリンが跳びはねた。
石畳の中に、
足形のついたプレートが埋め込まれている。
キング、クイーン、ジャックの方角まで
記されていた。
「あら、足を置く場所まで
決まっているのね!」
そこは、ほんの小さな立ち位置。
けれど、その足元から
三塔の王国が開けるというのだから不思議だ。
森村さんが足形に立ち、顔を上げる。
「ああ……!」
真っ先に心を奪われたのは、クイーン。
緑の曲線を描く屋根が朝陽を浴び、
優雅に、凛として輝いている。
まるで光にかしずかれた女王様だ。
万国橋では、
こちらに手を振ってくれたように感じた
クイーン。
今度は少し近くから、
気高い横顔を魅せてくれている。
その屋根は、
朝の光を散りばめた
ティアラのようでもあった。
「きれい! 女王様がいちばん目立ってる!」
モリリンがうっとりする。
「それに比べて……キングは?」
正面から見れば、
堂々たる威厳を感じる王様。
けれど、ここからは横姿。
五重塔を思わせる重厚な屋根は見えるものの、
装飾の美しさまでは伝わらず、
どこか影が薄い。
「王様、今日はクイーンに
主役を譲ったのかしら?」
「もしかして、女王様の尻に敷かれてる?」
「ええっ、王様なのに?」
「あははは!」
チャッピーがあわてて丸眼鏡を直した。
「こらこら、王様にも威厳がございますぞ!」
風さんがやさしく笑う。
「きっと、クイーンに花を持たせる
優しい王様なのよ」
「じゃあ、ジャックは?」
プレートの示す方角を見ても、姿がない。
「本当に三塔とも見えるの?」
「うーむ、どこに隠れたのでしょう」
そこでスマートフォンで写真を撮り、
画面を拡大してみると……。
「あらら! いた!」
建物の陰から、ジャックの細い塔の先端が、
ほんの少しだけ顔をのぞかせている。
「あらまあ、こんなに小さいの!」
さっきまで
見つけられなかったのも無理はない。
目を凝らして、
ようやく「あそこ!」と指させるほどなのだ。
「そんなところで何してるの?
もっと出てきなさいよ!」
「ジャックはかくれんぼが得意なんだね!」
ヒカリンが笑い、モリリンも吹き出した。
女王様が堂々と輝き、
キングは控えめ、
ジャックは物陰。
同じ三塔なのに、
並べて眺めると、
そこにまるで人間関係が生まれる。
一人ひとりでは立派な建物なのに、
三人そろえば王と妃と従者。
しかも、見る場所によって
主役が変わるのだろう。
そんなことを想像すると、
王国の物語が動き始めるようだった。
そして、私はふと思った。
ここは、何度も何度も通った場所。
けれど、プレートには今日初めて気づいた。
知らなかったから、目にも留まらなかった。
三塔を知ったからこそ、
いつもの石畳が新しい扉になった。
たった一枚のプレートに、
こんなに心を躍らせる日が
来るとは思わなかった。
知る前の私もここを歩いていた。
でも、知ったあとの私は、
同じ道に立ちながら別の世界を見ている。
星の三角形を見つけたことから始まった、
地上の三塔探し。
一つずつだった風景が、
今、線でつながり始めている。
「私も立ちたい!」
「ヒカリンも!」
モリリンとヒカリンが
代わる代わる足形に立つ。
「やっぱりクイーンがいちばん美しいね!」
「次はキングにも頑張ってほしいな!」
「ジャックも、もっと出ておいでよ!」
みんなの笑い声を、
朝陽がやさしく包んでいた。
第一のビューポイント、発見成功!
「さあ、次は象の鼻パークよ!」
「象さんのお鼻? どこにあるの?」
「それも探しに行くの!」
チャッピーが丸眼鏡を光らせる。
「隊長、次も前途多難ですなあ!」
ふわりと風さんが背中を押した。
森村探検隊、まだまだ先へ。
――中編へつづく。