16時からご予約をいただいていたので、
10分ほど前にホテルへと向かった。

昼間は穏やかな秋陽が降り注いでいたけれど、
いつしか太陽は雲の向こうへ。
夕暮れが近づくにつれて、
街にはひんやりとした空気が漂い始めていた。

あまりの寒さに、
今日はコートを一枚羽織った。

実は、最初は14時からのご予約だと
勘違いしていた私。
おかげで、思いがけず1時間半ほどの
余裕が生まれた。

こんなときこそ、少し眠っておけばいいのに。

ふふふ。

結局、私はまたまた物語の世界へ。
今朝誕生したばかりのビスカウト王国。
キング、クイーン、そしてジャック。
三つの塔が心の中で生命を宿し、
いつの間にか、
それぞれの人間模様まで描き始めている。

そんな空想の世界から、
なかなか抜け出せない。
大通り公園を歩いていても、
目の前には三塔の王国が
広がっているような気がした。

まるで童話の世界へ迷い込んだよう。
だから今日は、私もちょっぴりお姫様気分。
冷たい秋風さえ、
なんだか王国から届いた風
のように感じられた。

そして、次のドアが開きました。
迎えてくださったのは、
とても優しい笑顔のあなた。

その表情には、
ようやく逢えたという喜びが
あふれているようだった。

「ずっと森村さんが気になっていたんだけど、
なかなか日程が合わなくて。
でも、今日は1週間前から
予約していたんだよ」

そんなお話を聞いて、
胸がじんわりと温かくなった。
今日という日を、
そんなに楽しみにしてくださっていたなんて。
本当に嬉しかった。
ありがとう、あなた。

お話をしていると、
あなたはとても素直で、
人懐っこくて、かわいらしい。
それに、人一倍、
相手への気遣いを忘れない方だった。

そんなあなたに、私はそっと伝えた。
「そんなに気を遣わなくてもいいのよ。
思っていることを、
もっとストレートに言ってくださって
いいんだから」

すると、あなたのお顔が
ぱあっと明るくなった。
まるで、心の中の緊張が
ふっとほどけたかのよう。

その笑顔が、なんとも愛おしかった。
そして、あなたは私のことを、
「先生、先生」と呼びながら、
嬉しそうに甘えてくる。

あらまあ。
いつの間にか、
私は先生になってしまったみたい。

ふふふ。

こんなに素直でかわいらしい生徒なら、
お姉さんもついつい甘やかしてしまうわね。
いっぱい抱きしめて、
いっぱい頭を撫でて。
あなたの心が、もっともっと安らげるように。

そんな想いで寄り添っていると、
時間は驚くほど早く過ぎていった。

あらら。

もう、お別れの時間?
まだまだ可愛がってあげたいのに。
なんだか名残惜しいわね。

ホテルを出てからも、
しばらくあなたと腕を組んで歩いた。
夕暮れの街には、
相変わらず冷たい風が吹いていた。

けれど、不思議。
あなたの腕から伝わるぬくもりが、
なんとも心地よかった。

「先生、先生」そう呼んで甘えてくる、
あのかわいらしい声。
そして、優しい笑顔。
今日初めて逢ったあなたなのに、
いつの間にか、
こんなにも親しみを感じている。

人と人との距離は、
一緒に過ごした時間の
長さだけでは決まらないのかもしれない。
心を開き、素直な想いを交わすことで、
ほんの短い時間にも温かな絆が生まれる。

そんなことを感じた、秋の夕暮れだった。
ありがとう、あなた。
そして、たくさんのお土産もありがとう。
また、かわいらしい生徒に逢える日を、
先生は楽しみにしていますよ。

「じゃあ、気をつけてね」
そう言って、あなたを見送った。

冷たい秋風の中に、
あなたの優しいぬくもりだけが、
いつまでも残っているようだった。

秋風に
寄り添う腕の
ぬくもりを
心にしまい
また逢う日まで

— Morimura