森村探検隊|姫ビスカウトと眠らない胃袋【前編】王国のお茶会へようこそ
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「ねえ、ヒカリン。森村さん、
今日も三塔のビューポイントを
巡っていたね!」
「うん! しかも、一つひとつの場所で、
じーっと塔を魅つめてた」
「何を考えていたんだろう?」
「さあ。でも、
ときどき遠い海の方も眺めていたよ」
そこで、丸眼鏡のチャッピーが、
くいっと眼鏡を持ち上げた。
「ふむ。昨日は塔の姿を探して、
今日は塔の心を
探していたのかもしれませんな」
「塔の心?」
「そう。昨日は『見つけた!』という喜び。
今日は、
その向こうにある何かを見つけたのでしょう」
「じゃあ、今日もドキドキしてたのかな?」
「きっとそうだよ。
でも、今日も大さん橋には行かなかったね」
「もう胸がいっぱいなんじゃない?」
そんな三人のおしゃべりを小耳に挟みながら、
私は足を進めていた。
確かに、胸はいっぱい。
でも、ちょっと息も上がっている。
そういえば、昨夜はいつ眠ったのかも、
どうやって眠ったのかも曖昧だった。
きちんとベッドに横にならず、
座ったまま後ろに倒れ込むように
眠ってしまったらしい。
しかも、
その前には涙ぐましい抵抗をしていた。
まだ寝てはいけない!
じゃがりこ、ポリポリ。
柿の種、ポリポリ。
噛んで、噛んで、脳を目覚めさせよう!
ところが……。
「ねえ、モリリン。それで効果はあったの?」
「なかったみたい。
気づいたら寝ちゃってたんだって!」
「えーっ! せっかく食べたのに?」
そこでチャッピーが深々とうなずいた。
「森村さん、睡魔との戦いは完敗。
しかし、胃袋の戦いは圧勝ですな!」
「どういうこと?」
「夜中にじゃがりこと柿の種。
朝には、あわい茶屋で
こし餡の草餅までいただいたでしょう?」
「わあ! 胃袋だけは元気いっぱい!」
「どうやら森村さんの胃袋には、
閉店時間がないらしいですぞ!」
「24時間営業?」
「年中無休の食いしん坊王国!」
ぽんぽこ、ぽん!
あはは!
そんなことを話しているうちに、
午前中の予定が頭をよぎった。
あっ、いけない!急がなくちゃ!「
「ヒカリン! 森村さんが急に早足になった!」
「本当だ! でも、
さっき馬車道十番館の方を気にしていたよね?」
そうなのだ。
今朝、あのクイーンを眺めていたら、
またビスカウトが恋しくなってしまった。
香り高い紅茶を一杯。
そして、昔ながらのビスカウトをひとつ。
今風のおしゃれなクッキーとは違う、
しっかりとした重みと、
どこか懐かしい味わい。
あれをゆっくりいただく時間は、
きっと心まで潤してくれるだろう。
「ねえ、十番館って、
お城みたいな建物だよね!」
「もしかしたらクイーンも、
お忍びでお茶に来ているのかな?」
「お城の召使いたちが、
女王様のお気に入りを買いに来ていたりして!」
「じゃあ、ビスカウトは王室御用達?」
チャッピーが、こほんと咳払い。
「その可能性は、
ビスカウト王国の歴史書を
調べる必要がありますな!」
「そんな歴史書、あるの?」
「これから森村さんが書くのでしょう!」
あははは!
そういえば、
十番館の近くの公衆電話から
家族に電話をしようと思っていたのに、
小銭を忘れてしまった。
お茶も電話も、今日はお預け。
「ねえ、チャッピー。
森村さん、ビスカウトは一枚のカロリーが
高そうだって言ってたよね?」
「そうですな。
なかなか食べ応えのあるお菓子ですからな」
「でもね、ミニビスカウトって
いうのもあるらしいんだよ!」
「へえ! 小さいビスカウト?」
「うん! それなら、
お茶にちょこっと添えられるね!」
「あっ! そういえば、
京都の千寿せんべいには『姫千寿せんべい』
という小さいのがあるでしょう?」
「じゃあ、ミニビスカウトも……」
モリリンとヒカリンの声がぴったり重なった。
「姫ビスカウト!」
「ほほう! まさにクイーンのお
茶会にふさわしい名前ですな!」
チャッピーが得意げに胸を張った。
「では、ビスカウト王国限定、
姫ビスカウトの誕生ですぞ!」
ぽんぽこ、ぽん!
ふふっ。
女王様がティアラを輝かせ、
優雅に紅茶をいただく。
そのお皿には、小さな姫ビスカウト。
そしてキングも、
クイーンの隣で優しく微笑んでいる。
そんな光景を思い浮かべると、
また心が弾んでしまう。
「でもさ、モリリン」
「なあに、ヒカリン?」
「森村さん、午前中の予定があるから
急いでいたんじゃなかった?」
「あっ! そうだった!」
「お茶会のことを考えている場合じゃないよ!」
「森村さーん!
そろそろ現実の世界に戻ってくださーい!」
あはは!
どうやら今朝の私の心は、
まだビスカウト王国に
半分お邪魔したままらしい。
さあ、急いで帰らなくちゃ!
ところが、三人にはもうひとつ、
どうしても気になることがあったようで……。
【後編へ続く】