「ねえ、ヒカリン。何か忘れてない?」

「えっ? 何を?」

「森村さん、今朝はビスカウトのこと
ばっかり考えているけど……」

「あっ!」

ヒカリンが大きな耳をぴんと立てた。

「勝烈庵はどうなったの?」

「そうそう! あの棟方志功は?」

「ヒレカツは?」

「エビフライは?」

「森村さーん!
みんなどこへ行っちゃったのー!」

あははは!

そこへ丸眼鏡のチャッピーが、
のんびりと登場。

「おやおや。どうやら本日の森村さん、
すっかりビスカウト王国の
住人になってしまったようですな」

「でもチャッピー、
ヒレカツが大好きだったはずだよ!」

「そうそう!
エビフライも気になっていたでしょう?」

「ふむ。どうやら胃袋の政権交代が
起こったようですぞ!」

「えーっ! 政権交代?」

「ヒレカツ政権から、ビスカウト王国へ!」

「じゃあ、ヒレカツ大臣は失脚?」

「エビフライ大臣も?」

チャッピーが腕を組んで、神妙な顔。

「いやいや。おふたりとも、
しばらく休暇をいただいているのでしょう」

「じゃあ、また戻ってくる?」

「もちろん!
森村さんの胃袋に永久追放という
文字はありませんぞ!」

ぽんぽこ、ぽん!

あははは!

そんな賑やかなおしゃべりを小耳に挟みながら、私は帰り道を急いでいた。
午前中には予定がある。
そろそろ夢の王国から、
現実の世界へ戻らなくては。

そして吉田橋。
かつて開港場の関門があった場所。
ここを渡れば、関内から関外へ。

昨日は、この橋を渡るとき、
なんだか少し寂しかった。
三塔とお別れするような気がして、
何度も後ろを振り返っていた。

けれど、今日は違う。

「ねえ、モリリン。
森村さん、今日は振り返らないね」

「本当だ! まっすぐ前を向いて歩いてる!」

「昨日はあんなに名残惜しそうだったのに」

「どうしてだろう?」

すると、チャッピーが静かに口を開いた。

「それはね、もう王国を
心の中に見つけたからじゃないかな」

「心の中?」

「そう。昨日は三塔の姿を探して歩いた。
でも今日は、その心に逢えたのでしょう」

クイーンの優しい微笑み。
キングの威厳と包容力。
そして、ジャックの誠実な心。

昨日まで建築物だった三塔が、
今朝は私の心の中で、
ひとりひとりの人格を持ち始めた。
それぞれの想いが重なり、
ひとつの王国になった。

「じゃあ、森村さんはもう王国に
帰れないわけじゃないんだね!」

「もちろん!」

「どうすれば帰れるの?」

チャッピーがにっこり笑った。

「心の扉を開けばいいんだよ」

「あっ! いつでも逢えるんだ!」

「そう。クイーンもキングもジャックも、
みんな森村さんの心の中にいるんだから」

そうなのだ。

昨日は、王国を探しに歩いた。
今日は、王国を心に抱いて帰る。
だから、もう寂しくない。
振り返らなくてもいい。
私の心には、
いつでも開けられる小さな扉があるのだから。

やがて、いつものゴールに到着。
クールダウンのストレッチを始めた。

「ねえ、ヒカリン。
森村さん、また空を見上げているよ!」

「本当だ! 今度は何を探しているのかな?」

「やっぱり、お星様?」

「でも、もうすっかり朝だよ!」

チャッピーも空を見上げた。

「おや。今朝はなんとも美しい銀白の空ですな」

空は、真っ白になっていた。
けれど、ただの白ではない。
うっすらと透き通るような、
銀色の雲のベール。
まるで、夜の名残を
朝の光が優しく包み込んでいるようだった。

「ねえ、チャッピー。
今朝の星たちはどこへ行っちゃったの?」

「もう消えちゃったの?」

「いいえ。きっと、
あの白い空の中に溶け込んでいるのでしょうな」

「えーっ! 星って溶けちゃうの?」

「ふふっ。姿が見えなくなっても、
星はちゃんとそこにあるんだよ」

私は、もう一度空を見上げた。
今朝は星に逢えなかった。
けれど、あの群青の空に輝いていた星たちは、 今も私の心の中で光っている。
そして、昨日生まれたビスカウト王国も。

そう思うと、私の心の中にも、
小さな空が広がっているような気がした。

「ねえ、モリリン!」

「なあに、ヒカリン?」

「森村さん、今日も夢がいっぱいだね!」

「うん! 星に逢えなくても、
王国の心に逢えたもの!」

「それに、
姫ビスカウトまで生まれちゃった!」

「そうそう!
でもヒレカツ大臣はどうするの?」

すると、チャッピーが得意げに胸を張った。

「ご心配なく! 次回の胃袋閣議にて、
復職を検討いたしますぞ!」

「えーっ! そんな会議があるの?」

「もちろん! 議長は森村さんの胃袋ですな!」

あははは!

ぽんぽこ、ぽん!

さあ、今日の探検もこれにて終了。

星は見えなくても、心の中には輝いている。
王国を離れても、
心の扉を開けばいつでも帰れる。

そして、昨日の発見は今日の物語となり、
今日の物語は、また明日への夢になる。
心の中に広がる小さな空。
そこには、
まだまだ描ききれないほどの夢がある。

さあ、次はどんな物語が待っているのだろう。

森村探検隊、本日の探検、これにて閉幕!


🎬 森村探検隊・エンドロール

🌸 主演・探検隊長
森村さん
(夢と胃袋を満たし続ける人)

🎀 好奇心いっぱいの観察係
モリリン
(姫ビスカウト命名委員)

🌙 おしゃべり・食いしん坊監視係
ヒカリン
(ヒレカツ大臣の安否確認担当)

🦝 歴史解説・胃袋政権分析担当
チャッピー
(丸眼鏡の食いしん坊顧問)

👑 特別出演
キング・クイーン・ジャック
(ビスカウト王国より)

🍤 出演予定だった皆さま
ヒレカツ・エビフライ
(次回の登場を熱烈希望)

🍪 本日の主役級小道具
ビスカウト・姫ビスカウト
(王国のお茶会御用達)

🌬️ 風景演出
風さん
(群青から銀白へ、空の衣替え担当)

✨ 企画・脚本・総監督
森村
制作協力:森村さんと愉快な仲間たち

次回も、風の向くまま、心の向くまま。

ぽんぽこ、ぽん!

— Morimura