心の余白が色づく頃〜忍者めしと、秋風に残るあなたの温もり〜
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引き続きご予約をいただいていた。
けれど、次のドアが開くまで、
まだ10分ほどある。
ああ、ちょっと小腹が空いたな。
一瞬、
ローソンのからあげクンを
買いに行こうかしら、なんて思った。
いやいや、ダメダメ!
今日のお昼は、フライをいただいたばかり。
もう今日は揚げ物を食べてはいけません!
そう自分に言い聞かせ、
代わりに手に取ったのは、
最近すっかりお気に入りになっている
「忍者めし」
これ、なかなかの優れものだと思う。
とにかく硬い!
グチュグチュ、グチュグチュ。
一生懸命噛んでいると、
なんだか頭まで冴えてくるような気がする。
しかも、噛んでいるうちに、
不思議と小腹まで満たされてくる。
カロリーも控えめなのが嬉しい。
そんなわけで、
最近はバッグの中に忍者めしを忍ばせている。
ふふっ。まさに忍者のように、ひっそりと。
どうせ待機所へ戻れば、
おにぎりもあることだし。
ここは忍者めしで空腹をしのぐことにしよう。
ところが、この忍者めし。
ひとつだけ難点がある。
日記を書いていて、
ちょっと言葉に詰まったり、
考え込んだりすると……。
ひとつ、ふたつ。
いや、もうふたつ。
気がつけば、2個、4個、6個!
ポイ、ポイ、グチュグチュ。
あらまあ!
もともと少ししか入っていない一袋が、
あっという間に空っぽになってしまう。
そういえば、
一袋にいったい何粒入っているのかしら。
今度、一度きちんと数えてみなくちゃ。
そんなことを考えているうちに、
そろそろお時間。
そして、次のドアが開きました。
ドアが開いた瞬間。
あら!思わず、
あなたのお姿に目を奪われてしまった。
彫りの深い、端整なお顔立ち。
すらりとしていながら、
たくましさを感じさせる身体。
まるでモデルさんのよう。
いやいや、スポーツ選手のようでもある。
とにかく、なんとも格好いいあなたでした。
しかも、お若い。
ふふっ。年下の方だと思うと、
つい年齢を尋ねてみたくなってしまう。
でも、そのあたりはちょっぴり秘密。
私のほうがだいぶお姉さんだけれど、
大丈夫かしら。
そんな思いもありながら、
あなたとの時間が始まった。
そっと触れてみる。
そして、あなたのお顔をじっと魅つめた。
なんて綺麗な瞳なんでしょう。
くりっとした、澄んだ瞳。
その奥まで魅つめていると、
なんだか吸い込まれてしまいそう。
「気持ちいい?」そう尋ねると、
「気持ちいいよ」
何度も優しく答えてくださる。
そのひと言が嬉しくて、
私まで自然と笑顔になってしまった。
いつの間にか、
あなたに夢中になっている私がいた。
そして今度は、あなたから。
そっと頬を撫でてくださる。
髪にも、優しく触れてくださる。
その仕草が、なんとも自然で心地よい。
まるで、年下のあなたから
「かわいい、かわいい」と
大切にされているような気分。
ふふっ。私、こういうの、大好き。
年上だからといって、
いつもお姉さんでいなくてもいいものね。
ときには、思いきり甘えてみたくなる。
あなたのたくましい腕に包まれながら、
そんな気持ちがふっと芽生えてきた。
それにしても、不思議ね。
凛々しく、たくましいあなたなのに、
触れ合うひとときは驚くほど柔らかい。
その優しい温もりに包まれていると、
心までゆっくりほどけていくようだった。
まるで、秋の風にそっと
撫でられているような。
爽やかで、それでいて温かい。
そんな心地よさ。
今日、大通り公園で感じた、
あの美しい木漏れ日にも少し似ている。
強い光ではなく、
た柔らかく包み込んでくれる光。
あなたの優しさも、
そんな温もりを持っているように感じた。
そして、お別れの時間。
「今日はありがとう」
「また待っていますね」
あなたの優しい笑顔に見送られながら、
ドアを閉じた。
ああ、楽しかった。
そして、なんだかまだドキドキしている。
あなたの温もりが、
身体にも心にも残っているようだった。
待機所へ戻る道すがら、
いつもの場所に腰を下ろした。
さて、日記を書こうかしら。
あっ、その前に忍者めし!
ふふっ。
ところが、バッグに手を伸ばそうとして、
ふと動きを止めた。
頬を撫でていく、夕方の爽やかな風。
その風に触れた瞬間、
先ほどのあなたの優しい仕草が心
によみがえった。
なんだか、まだ温かい。
空を見上げる。
つい先ほどまで白かった空が、
ゆっくりと群青へ向かおうとしている。
今日という一日が、
少しずつ夕暮れの色をまとい始めていた。
そういえば、今朝の私の心には、
大きな余白が広がっていた。
星を探し、海を魅つめ、
風の声に耳を澄ませながら歩いた朝。
その余白には、
いつの間にかたくさんの物語が生まれていた。
そして今。
あなたの優しさに包まれた時間が、
そこへまた新しい色を添えてくれた。
心の余白は、
何かを詰め込むためだけにあるのではない。
誰かの温もりや、
ふとしたときめきが、
自然に色を落としてくれる
場所なのかもしれない。
白から群青へ。
移ろいゆく夕空を魅つめながら、
私はそっと微笑んだ。
ああ、今日もまた、心が満たされている。
忍者めしで小腹は満たせても、
この胸のときめきまでは生み出せないものね。
ふふっ。私の心の余白、
今日はずいぶん色づいたみたい。
秋風に
頬のぬくもり
連れ帰り
白き余白を
群青に染む
— Morimura