空からのビュー|三塔が見せた新しい横浜〜視線の高さが変われば、心の景色も変わる〜
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もし、あの塔と同じ高さから横浜を眺めたら、
どんな景色が広がるのだろう。
昨日、三塔のビューポイントを探し歩き、
今朝はそのひとつひとつに立ち止まった。
キング、クイーン、ジャック。
それぞれの姿に心を寄せるうち、
いつしか生まれた小さな願い。
今度は、空に近い場所から見てみたい。
昨日、今日、明日。
この3日間が勝負。
感動が薄れないうちに、
その続きを確かめておきたかった。
そして10時25分。
昼食の予約まで少し時間があることに気づき、11階の展望テラスへ向かった。
予約のあることを伝えると、
案内は思いのほかスムーズだった。
予定より早く夢の場所へ向かえる。
その小さな幸運まで、今日は嬉しい。
エレベーターの扉が開く。
あら、こんなふうに見えるのね!
目の前に広がったのは、
これまで地上から探し、
見上げてきた三塔の姿だった。
けれど真っ先に目が向いたキングは、
なぜか少し頼りなげ。
朝、正面から見上げたときには、
思わずひざまずきたくなるほど
堂々としていたのに、
上から眺めると、
ひと回りもふた回りも小さく見える。
角張った威厳ある意匠まで、
どこか丸みを帯びている。
建物の土台が隠れ、
塔だけがぽつんと目立っているせいだろうか。
ふふっ。
やっぱりキングは、
下から見上げるほうが似合うのね。
一方、クイーンは、ここからでも美しかった。
エメラルドグリーンのティアラをいただき、
優雅に佇む姿は、
まるで異国の宮殿。
海を迎えるように広がる建物に、
気高く柔らかな女王様の面影が重なった。
ジャックはというと、
時計塔ばかりがひときわ目立つ。
屋根の凝った意匠は
童話のお城のように可愛らしいのに、
時計塔だけは妙にきりりとしている。
昔の火の見櫓で、
半鐘を鳴らして人々に合図した姿が浮かんだ。
ジャックが知らせてきたのは火事ではなく、
時刻。
王国の暮らしに、
時の流れを届けてきたのだろう。
そして、海に目を向けた。
ああ、なんて広い。
毎朝、自分の足で一歩ずつ進んできた
大さん橋が、ここでは小さな模型のよう。
そこから先に、
まだこんなにも大きな海が続いていたなんて。
青い空には、
太い筆や細い筆で
何度もなぞったような白い雲。
今朝、地上で魅つめた風の筆跡が、
海の向こうから横浜へ
流れ込んでくるように魅えた。
大さん橋の先には大きな船が停まり、
赤レンガ倉庫は
海辺の風景の一部になっている。
地上では、
そのひとつひとつが私の目的地だった。
でもここでは、どれも大きな港を形づくる、
小さく愛おしい存在だった。
高いところから見ることで、
見慣れた海を初めて知ったような気がした。
ふと、横浜開港資料館で目にした
「横浜の記憶」という言葉がよみがえる。
かつて、この海を渡って異国の文化が届き、
日本各地からも人々が集まった。
小さな村だった横浜は、
新しい言葉や品物、
暮らしが交わる街へと変わっていった。
今、広い海と空を眺めていると、
その長い時間まで、
ひとつの風景に溶け込んでいるようだった。
今日の海には、
かつて海を渡った人々の足跡が
見えるわけではない。
けれど、目に見えない歴史の息遣いを感じる。
私にとって風景の「香り」とは、
きっとこういうものなのだろう。
そして12階へ。
たったワンフロア上がっただけなのに、
景色がまた変わった。
キングの建物の正面が現れ、
左右に広がる堂々たる姿が戻ってきた。
ああ、王様の威厳が蘇ったわ。
今度のクイーンは、
そんなキングの一歩後ろで静かに寄り添い、
華やぎを添えているよう。
ジャックは相変わらず、
少し控えめにふたりを支えている。
同じ三塔なのに、見る高さが違うだけで、
関係まで違って見えるなんて。
朝、海辺から魅つめたクイーンは、
両腕を広げて
異国からの客を迎える女王様だった。
それが今は、
キングをそっと見守る気品ある女性に魅える。
ひとりの人の中にも、
相手や場所によって違う表情がある。
それを思うと、
王国の三人がますます近しい存在になった。
建物は何も変わらない。
変わったのは私の立つ場所。
そして、魅つめる心なのかもしれない。
思えば昨日は、
三塔の見える場所を探すのに夢中だった。
今日はその心に触れたくなり、
ついには空から眺める夢まで叶ってしまった。
吉田橋、馬車道、赤レンガ倉庫、大さん橋。
そして、資料館で出逢った横浜の歴史。
地上では別々の点だった景色が、
高い場所に立つと、
一本の線になってつながっていくようだった。
「点を結べば線になる。
線を結べば面になる。
そして、その道を自分の足で歩けば、
物語になる!」
かつて自分で生み出した言葉が、
今日は思いがけず立体的な風景になった。
三塔を見れば幸せになれる。
そんな言い伝えもあるという。
本当かどうかはわからない。
でも、ひとつだけ確かなことがある。
自分の心が動き、
次の行動につながり、
新しい景色に出逢えたこと自体が、
ひとつの幸せなのかもしれない。
窓の向こうに広がる海と空。
その向こうには、
まだ知らない横浜がある。
昨日は三塔を見つけた。
今朝は三塔の心に触れた。
そして今、空から新しい横浜に逢った。
心が動くたび、
私の物語には新しい扉が生まれる。
— Morimura