「ねえ、ヒカリン。森村さん、

さっきから静かすぎない?」

「ほんと。ジャックの塔を離れたのに、
心はまだ帰ってきてないみたい」

モリリンが、そっと覗き込む。

「森村さん、探検隊はどうするの?」

……返事がない。

「チャッピー! これは事件よ!」

丸眼鏡のチャッピーが腕を組んだ。

「ぽんぽこ、ぽん! どうやら森村隊長、
岡倉天心の碑から法隆寺の夢殿へ、
心だけ遠征中でござる!」

「ええっ! 奈良まで行っちゃったの?」

「このままでは探検隊、
奈良支部になってしまうぞい!」

「それは困るわ! 風さん、お願い!」

ふわり。

冷たい秋風が、私の頬を撫でた。

「森村さん。そろそろ横浜へ戻っておいで」

「……あっ!」思わず立ち止まった。

「ごめん、みんな。
ちょっと心が旅人になっていたわ」

「ちょっとどころじゃないわよ!」

みんなが大笑い。

たしかに、今朝は不思議な朝だ。
天空で星を結んでいたら、
横浜の街で記憶がつながり、
ついには遠い奈良へ。
心には、まだまだ歩ける道があるらしい。

「それで森村さん、探検隊は?」

「もちろん続行! ……あっ、
ここを曲がれば勝烈庵ね」

「出た! 突然の進路変更!」

今日は10時から関内でマツエク。
お店への出勤は14時から。
その合間に、
熱々のランチでもいただきたい気分だった。
勝烈庵の店先に立つと、

「あっ! 森村さん、これ見て!」

ヒカリンがぴょん!

「創業100周年記念、
棟方志功の絵皿プレゼントだって!」

「えっ、本当? 10月19日から23日まで?」

私の足が、ぴたりと止まる。

「欲しいなあ。
でも、お皿って、やっぱり四枚揃えたいのよね」

「出ました! 森村さんの四枚セット主義!」

「チャッピー、予定表!」

チャッピーが丸眼鏡をくいっと上げる。

「20日は東京出張。21日は18時から出勤。

となると、22日と23日が有力でござる!」

「四枚には二枚足りないじゃない!」

「ねえ、モリリン。森村さん、
もしかして二人前食べたら
二枚もらえるか聞くつもりじゃない?」

「いやいや、昼と夜に二回来る作戦かも!」

「それ、ありそう!」

「ぽんぽこ、ぽん! 心は無尽蔵でも、
胃袋は一つしかござらぬ!」

「あははは!」

……みんな、私の考えを読みすぎじゃない?
まあ、絵皿獲得計画は
次の横浜ステイまでの宿題にしましょう。

そんなことを考えながら、吉田橋を渡る。

あれほど輝いていた二つの星は、
もう魅えない。
けれど、白さを増した朝の空のどこかで、
今も静かに魅つめ合い、
語り合っているような気がした。

やがて伊勢佐木モールへ。

「ねえ、ヒカリン! 森村さん、
今マックをちらっと見たわよ!」

「月見バーガーが気になってるんでしょう?」

「しかも、マックカード持ってるんだって!」

「ぽんぽこ! これは食欲の秋、
重大事件でござる!」

「もう! みんな名探偵みたい!」

「わしは名探偵チャッピー! ……いや、
今日は迷探偵だったかのう」

ぽんぽこ、ぽん!

「でも森村さん、朝からビスカウト食べて、
あわい茶屋では柏餅も食べたでしょう?」

「ほんと!
食べるために歩いているのかしら?」

「違うわよ。歩いていたら、お腹が空くの!」

これには、みんな大笑い。

伊勢佐木モールにも、朝の息吹が戻ってきた。店々が開店の準備を始め、
人々の営みが少しずつ動き出す。

私の小さな朝の冒険も、そろそろゴール。
ふと空を見上げる。
群青から白へ。
あれほど胸がいっぱいで、
もう何も入らないと思っていたのに。

不思議ね。

そこには、また新しい余白が広がっていた。

「森村さん、また探検できるね!」

「ええ。心の旅には終点なんてないもの」

すると風さんが、ふわり。

「でも、そろそろ身体は休ませてあげようね」

「賛成!」
チャッピーが丸眼鏡を整える。

「ぽんぽこ、ぽん! 本日の探検報告!」

「はい!」

「森村隊長、心は奈良へ、足は横浜へ、
胃袋は勝烈庵へ!」

「ちょっと!
私、まだカキフライも食べたいんだけど!」

「なんと! 胃袋だけは、
まだまだ探検続行でござる!」

みんなの笑い声が、朝の街に響いた。
森村探検隊、
本日の実況中継はこれにて終了!

次は「森村さんのオアシス時間実況中継」
それまで、しばらくお待ちください。

チャンちチャン!

🎬 エンドロール

出演
森村・モリリン・ヒカリン・チャッピー・

風さん特別出演
岡倉天心の碑・法隆寺夢殿
勝烈庵の絵皿(獲得作戦検討中)

次回予告
「森村さんのオアシス時間|心は無尽蔵、
胃袋の余白はいかに?」

制作・総監督 森村
実況・迷探偵 チャッピー

— Morimura