第一部|二つの星が語り合う朝〜群青の空に灯る、心の炎〜
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歩くたびに、星が現れる。
一つ見つけては立ち止まり、
また一つ見つけては空を見上げる。
今朝の横浜は、
まるで私の知らなかった天空の扉を、
次々と開いてくれるようだった。
いつも歩いている道。
いつも見上げている空。
それなのに、
今日はどうして
こんなにも違って魅えるのだろう。
星を見つけるたびに、
胸の奥から何かが湧き上がってくる。
ああ、嬉しい。
もっと魅たい。
もっと知りたい。
もっと、この世界の奥へ進んでみたい。
そんな好奇心に誘われながら、
私は吉田橋へとたどり着いた。
そして、そこで足を止めた。
空に、二つの星が輝いていた。
一つは、ひときわ明るく。
もう一つは、少し控えめな光を放ちながら。
少し離れたところで、
まるで向かい合うように輝いている。
不思議ね。
星は、ただそこにあるだけなのに。
私には、二つの光が
静かに語り合っているように魅えた。
何を話しているのかしら。
今日のこと?
昨日のこと?
それとも、
これから始まる未来のこと?
そんなことを考えているうちに、
ふと、あの二人の姿が浮かんできた。
キングとクイーン。
堂々とした風格で街を見守るキング。
華やかで気高く、
優しい微笑みをたたえたクイーン。
昨日、あの二人の世界を
訪ねたばかりだからだろうか。
今朝の星たちまでもが、
あの王国の住人になったように思えた。
一つは力強く輝き、
もう一つは、その光にそっと寄り添う。
けれど、
どちらが主役というわけでもない。
それぞれが自分の光を持ち、
それぞれの場所で輝いている。
そして、互いの存在を
静かに認め合っているようだった。
その姿を魅つめていると、
今度は、私自身の心が重なってきた。
私と、あなた。
そして、私と家族。
人は、それぞれ違う場所で、
それぞれの時間を生きている。
同じものを魅ているとは限らない。
同じことを考えているとも限らない。
それでも、ふとした瞬間に、
心が通い合うことがある。
遠く離れていても、
誰かの温もりを感じることがある。
そんな想いが、
二つの星の間を行き交っているようだった。
私は、もう一度カメラを向けた。
できれば、
この二つの星を一枚の写真に収めたい。
けれど、どうしても収まらない。
一つを写せば、もう一つが遠ざかる。
ああ、残念。
そう思った瞬間、
ふと、可笑しくなってしまった。
何も、同じ写真に収めなくてもいいじゃない。
同じ写真には収まらなくても、
同じ心の中には収まる。
そう思うと、
不思議なほど気持ちがやわらかくなった。
形として残すことだけが、
大切なのではないのだろう。
そのとき何を感じたのか。
どんな想いが胸に生まれたのか。
その心の動きこそ、
本当に残しておきたいものなのかもしれない。
空を見上げた。二
つの星の間には、
何もないように魅える。
けれど、私には、
そこに美しいピンクの炎が
静かに揺れているように感じられた。
激しく燃え上がるのではない。
けれど、その奥には、
容易には消えることのない、
深く熱い情熱が宿っている。
誰かを大切に想うこと。
逢えない時間にも、
その人の存在を胸に感じること。
それは、時を重ねた大人だからこそ知る、
静かで、深く、情熱的な恋の炎。
表には現れなくても、
心の奥底で絶えることなく燃え続ける、
美しいピンクの炎。
そんな目には魅えないものが、
二つの星の間で、
静かに揺らめいているようだった。
冷たい秋風が吹き抜ける。
思わず肩をすくめるほどの風。
それなのに、
私の胸の奥は、こんなにも熱い。
今朝はどうしてしまったのだろう。
大きな声で叫びたい。
このまま走り出してしまいたい。
そんな衝動に駆られるほど、
喜びと情熱が溢れ出してくる。
昨日まで、
あんなにもたくさんの風景に出逢い、
心は十分に満たされていたはずなのに。
今朝はまた、
新しい世界が次々と広がっていく。
もしかしたら、
心というものには、
満杯ということがないのかもしれない。
何かを受け取れば、
その分だけ、また新しい場所が生まれる。
そして、そこへ
次の喜びが入り込んでくる。
そんなことを思いながら、
しばらく二つの星を魅つめていた。
ねえ、星さん。
あなたたちは、
いつからそこで語り合っていたの?
昨日も、その前の日も、
私は何も知らずに歩いていたのね。
けれど、今日、
こうしてあなたたちに出逢えた。
それだけで、
今朝という時間が、
かけがえのないものになった気がする。
やがて私は、
もう一度、夜の名残をとどめた街へ歩き出した。目指すのは、馬車道。
けれど、心の中では、
まだあの二つの星が輝いている。
その間を行き交う、
静かに揺れるピンクの炎。
それは、きっと、
私の心の中にも灯っているのだろう。
ふわり。
また、風が吹いた。
今度は、その冷たささえ心地よかった。
昨日、空から横浜を魅た私。
今朝は、横浜から天空を魅つめている。
そして、そのどちらにも、
目には魅えない人の心が息づいている。
そんな不思議な感覚を胸に抱きながら、
私は馬車道へと足を向けた。
まだ、夜明けには少し早い。
けれど、私の心には、
もう小さな朝陽が昇り始めていた。